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ショッピングを続ける日本で生産されているい草の9割は熊本県産。そのなかでも最も高い生産量を誇るのが、八代市のい草です。今回はそんな八代市のい草農家 田淵稔さん・満稔さん親子のもとを尋ねました。
雲一つない澄んだ青空の下、のびのびと育てられている田淵さんのい草たち。お話のなかで、何度も繰り返されたのが「無理させない」「焦らない」「ありのままで」。
い草栽培には高い技術が求められるため、こうした大らかな言葉は意外に感じられるかもしれません。しかしそれは、い草が育っていく姿と常に向き合い続けている田淵さんだからこその言葉でした。
今回お話を伺ったのは……
い草農家
田淵 稔|たぶち みのる
1963年生まれ
田淵家の二代目で、熊本畳表株式会社の代表。祖父が田んぼを購入したことがきっかけで、父親の代から農家となる。自身も一般企業を退職した後に、24歳から農業を始め、後に会社を立ち上げる。商品開発などにも精力的。
趣味は釣り
い草農家
田淵 満稔|たぶち みつとし
1986年生まれ
田淵家の三代目。稔さんの勧めがきっかけで、東京の農業大学校で農業や経営を学んだ。その後、実家に戻り稔さんと共にい草栽培を始める。2児の父。
趣味はサッカーと麻雀とお酒
生産しているい草の品種と、い草づくりでのこだわりを教えてください。
田淵 満稔:
「夕凪」と「ひのみどり」と「ひのはるか」を生産しています。
田淵 稔:
こだわりは、うーん。変なこと言うけど、こだわりって何か生産者の押しつけみたいな気がして.....。まあ強いていうなら、「無理させない」っていうことですよね。
memo|い草の品種について
夕凪:緑味が深く良質ない草。硬くて丈夫な仕上がりになる。熊本県で生産されるい草の約7%がこの品種。
ひのみどり:い草の一本一本が細いのに太さが揃っており、色揃いも美しい高品質ない草。非常に繊細で、栽培には高い技術が求められる。熊本県で生産されるい草の約25%がこの品種。
ひのはるか:い草の粒揃いが良く、柔らかいのが特徴。明るく青い色調に仕上がる。熊本県で生産されるい草の約14%がこの品種。
い草はまず苗床で育てて、健康に育った苗を冬の水田に植えていく。(撮影:11月下旬)
田淵 稔:
い草ってやっぱり田んぼやその時期次第で、植えつけてから出来不出来があるんです。そのとき焦って、高収量、要は豊作を目指して、肥料を余分に与えたりしちゃう人も農家さんもいるんですよね。
でも、うちはそれを絶対しない。イコール待つ。待って最後まで駄目だったら、もうそのまんま素直に収穫する。焦らないで待つっていうのを一番心がけてます。
不出来ない草に農薬や肥料を無理やり食べさせても、やっぱり吸収しないし、なんかかわいそうなんで。
つまり、肥料を最小限にして与えすぎないというイメージですか?
田淵 稔:
そうですね。毎年決まった量をやるんですけど、この子食べてないなって思ったときは減らします。1回の量を減らして、2回で食べさせる。
まあ人間でいうと、普通1日3食食べるけど、食べられないなってときは4回5回に小分けにして少しずつ食べさせる、みたいなことは途中でしますね。
その「食べてないな」ってのはどう分かるんですか? 田んぼのなかでも一か所が明らかに成長しないとかあるんですか?
田淵 稔:
いや、もうこの大体1枚の田んぼ全体の調子が、2~3月には分かるんで。
memo|い草は夏に苗床で苗を育て、11~12月頃にその苗を田んぼに植えます。その後、4月中旬~5月頃に新芽の成長を促すため先狩りが行われ、6月~7月頃に収穫を迎えます。
先刈り後の田んぼ(撮影:4月中旬)
そんなに早く分かるんですか?
田淵 稔:
うん。だから、普通6回散布する肥料を、1回の量を減らして8回にしようとか。
少食の子に無理やりどんぶり飯を食わせるんじゃなくて、茶碗にしてあげて、その代わり時間を短くして少しずつ。絶対量は一緒にして、最終的に成長したときに同じようになるようにっていうのは思ってますね。
その判断とか、田んぼの様子に気づくのは、やっぱり経験とかによるものなんですか?
田淵 稔:
そう、もう勘ですよね。
収穫したい草は、農家さん自らが織り上げる。
ありがとうございます。では、織りのこだわりについてはどうですか?
田淵 稔:
うーん、織りかあ……。一般のお客様のなかには、畳替えとかで10年前とかにもお付き合いしている方もいらっしゃると思うんです。そういう方に「同じ畳屋さんで」と指名されて、「あ、これこれ。こういうのイメージしてた。やっぱり同じだね」って言われるようなものを作ろうかなと思ってますね。
安定した品質、ということですかね?
田淵 稔:
そうですね。もう、ブレがない。ブレがないのが一番だね。
この度、萩原製造所で田淵さんの寝ござを取り扱わせていただくことになりました。こちらを作り始めたきっかけを教えてください。
田淵 稔:
えっとね。まず30年くらい前に私が、普通の畳表に畳縁を付けた「肥後花筵(ひごはなむしろ)」ってござを作ったんですよ。
それで当時SNSとか無かったので、いろんな問屋さんだったりとか、雑貨屋さんとかに「どう?」って言って回ったけど、結局販売まで至らなかった。当時の織り方ではゴワつくっていうか、なんかな、厚すぎて馴染まなかったんですよね。ベッドとか布団とかに。
でも近年、17~8年前くらいに目積(めせき)って織り方が出てきて。
目積織は、織りが細かく繊細で柔らかい肌触りが特徴。
触ってみたら柔らかいし、自分もそれで寝ござを作ってみたら、やっぱりこう......”良い”んですよ。目積織りのほうが明らかに使いやすかった。だから、息子の代になりますけど、またやってみようかなって作るようになりました。
目積織りって結構最近できたものなんですね。
田淵 稔:
そうですね。詳しく言うと、琉球表は昔から目積織りで織られていて、その以前は岡山の方でも昔からあったようなんですが、熊本では、あんまり作られていなくて。熊本の方でもだいたい20年ぐらい前から流行りだしたのかな。
柄は、(右から)「チェック」「ストライプ」「ナイス(無地)」の全3種。
田淵 稔:
ちなみに柄は「チェック」「ストライプ」「ナイス」。柄が”無い”から、「ナイス」(笑)。
い草農家さんの多くは栽培から織りまで家族経営で行っています。朝から晩まで農作業をこなし、さらに織りも行うのはとても大変……。
そんななか、稔さんは会社を立ち上げ、織り・販売の工程を法人化させました。畳表加工マニュアルを整備し、従業員さんに織りを任せることで、田淵さん一家はい草栽培や商品開発に専念できるように!
自社で開発した「ウォータージュエリー®」(撥水加工が施された天然のい草)は飲食店や介護施設にも採用されるなど、農業と経営の両面からい草農家の可能性を広げています。
最後にひとつ質問です。何か好きな言葉とかってありますか?
田淵 満稔:
うわぁ。好きな言葉かあ……
座右の銘とかそういうのでもいいですし。
田淵 稔:
私は「感謝」ですね。全て「感謝」から始まると思ってるんで。
「ありがとう」って言うと終わるじゃないですか。でも、「感謝」って言うと、それが何か始まるような気がして。それが一番好きですね。
だから「感謝」から始まるよって。ま、人付き合いもそうですけど、夫婦もそうだし。
そう思ってますね。
ありがとうございます。満稔さんはどうですか?だいぶ顔が険しいですけど(笑)
田淵 満稔:
うーん。考えたこともない。
田淵 稔:
あれじゃね?「よかよか、これくらいで」って。好きじゃない?
田淵 満稔:
あー、そんな感じかな。でも何か……うーん……。
すみません、難しい質問をしてしまいましたね(笑)
田淵 稔:
まあ、い草ってある程度妥協しないといけないとこもあって。自分が思った通り育たないと、心に余裕がなくなっちゃうこともあるんですよ。
でもい草からしたら、仕方ないわけなんですよね。だからそういう時に「まあ、良い良い。ま、これでいいよ」っていう気持ちを持ってほしいね。
田淵 満稔:
ああ、そうね。その考えがないとやっていけないよね。好きな言葉ってわけじゃないけど。でも、普段そんな感じっすね。考えすぎないっていうか。
田淵 稔:
「今年やべぇ、やべぇ」って言うんですけど、いや良い。そのまんまでいいって、どうにかなるって(笑)。
2月、3月でい草ってだいたい分かるからその時点で、「あっ、分かった。じゃあもうこの田んぼはこのまんま行こうよ。ま、ちょっと収量が少なくてもいいじゃん。無理させずに、その田んぼにあった、その成長させればいい」ってね。
そこで結構こだわって、「ここを絞って、ここをブレーキかけて......」って方針で育てる農家さんもいるんですけど、うちにはないですね。
冒頭の「無理させない」に繋がっていきますね。こう、自然で、ありのままで......。
田淵 稔:
そう。ありのままに育てていく。それが一番いいような気がする。やっぱ、「焦るな、焦るな」ですよ。
そうですよね。
田淵 稔:
今まで何十年も育ててきましたが、無理やっていいことなんてなかったですしね。最終的にコストアップに繋がってしまったり、逆にい草が萎縮して成長を止めちゃったりしたこともあるし……。
田淵 満稔:
品質も収穫量も安定しない、とかね。そういうのを考えると、ありのままに育てていくっていうのはやっぱり大事かなと思います。
い草に「無理させない」のは、長年い草を育ててきた田淵さんたちだからこそ分かる、一番良い育て方なんですね。その優しさが、い草からふわりと伝わってきます。本日は貴重なお話をありがとうございました!
など
地域特産物マイスター(いぐさ・畳表)
くまもとグリーン農業 宣言番号/1-01981
Instagram:@tabuchi.minoru
くまもとグリーン農業 宣言番号/1-20157
Facebook:熊本畳表株式会社